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【代表の想い】vol.85[令和5年 第1回庭園のわざと仕事オンラインセミナー]


皆様こんにちは。清水園でございます。

さて、日本造園組合連合会が主催する「庭園のわざと仕事オンラインセミナー」。先日令和5年における第1回目が行われたそうで、弊社代表も参加されたとの事。


代表の勉強熱心な姿勢には筆者も毎回感心しきりではあるのですが、今回のセミナーで登壇されたのは‘京都にわ耕’代表の岡本耕蔵氏。以前当コラムでも岡本氏が講師を務められた「坪庭講習会」をご紹介させて頂きました。確かに、岡本氏が登壇されるとあればその内容には非常に興味をそそられます…。


「改めて岡本さんについて簡単にご説明すると、庭師の中でも今は貴重な筋金入りの文化人…華道・茶道・能楽いずれも師範代のお方で、正統派中の正統派。数奇屋建築の名家‘中村外二棟梁’と永くお仕事をご一緒されていることもあり、全国的に注目されている庭師さんです。

今回のセミナーでは‘庭づくりと手入れ・掃除’についてお話ししてくださりました。我々の仕事においては‘基本のき’ともされる内容ですが、岡本さんが改めてこういった内容を我々にお伝えくださることは、非常に意義深いことだなと感じ参加させていただいた次第です。」


代表も度々「庭は作って終わりではなく、作ってからが始まり。庭は育てていくもの。」とお話しくださりますが、岡本氏のお言葉を通し改めて、その内容について見解を深められればと思います。


「岡本さん直々にご準備くださったスライドをもとに、セミナーは進行されました。まず、庭づくりの考え方について。‘庭となる空間を耕す’、‘「耕す」は文化’、‘材料との出会い’、‘道具は自分の手…同心・同体’‘技術よりも人間性’と5つの項目についてお話しされたのですが、私自身も頷く事の多い内容でございました。


例えば‘材料との出会い’。これは兼ねてから‘ご縁’だと感じているのですが、岡本さんもやはり‘出会ったものは常にストックしておき、いつかに対して備えておく’事の心構えをお話しされていました。また‘道具は自分の手…同心・同体’。人間は火を持ち道具を使う唯一の生き物ですが、我々にとって造園にまつわる道具は自身の身体の延長・一部とも言える存在。良い物を日頃からきちんと手入れし扱う事の大切さをお話しされていました。


最後の‘技術よりも人間性’の項については特に印象深く、‘普段の人間性が庭にも反映させられる’との事。ただただ予算や忖度、自身の身勝手な価値観で庭を作るのではなく、歴史や自然との繋がり、山に生えている木の必然性…基礎教養や知識を知らないでいると‘自然な庭’を作ることは出来ない。植物や自然の物同士の繋がりに流れやストーリーがあるように、ストーリーのある庭を作るためにはそういった人間性も磨いておく必要がある…と。


我々が庭・自然の物を扱い続ける限り、木々が日の当たる方向に伸びるといったような当然の事柄も、実は非常に重要になってまいります。そのような相関関係を熟知して初めて‘そこにあったかのような自然な庭’を作ることが出来るのです。」


様々なご縁を大切にするだけではなく、道具の扱い・自然に対する見聞を深めるといった‘庭師としての生き方や姿勢’そのものも庭づくりに反映されるとの事。胸中に深く刻まれるお言葉です。


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「続いて岡本氏がお話しされたのは‘植木の手入れ’について。我々がまさに日常としている事柄について、改めてその大切さについて語ってくださりました。

まず‘石は深くから地表へ、木は地表から天まで、水の流れは地表の声’。これは、石を置くときには石が地面から生えてきたように置き、木はそのまま生えてきて天まで登るように手入れし、雨が降って水が流れてきたように水を流しなさい…‘そこにあったかの如く庭を作りなさい’と。これは先にお話しした‘技術よりも人間性’のお話に繋がってくるのですが、わざとらしい庭にならないよう自然の摂理を理解しておくことの重要性を具体的にお話しくださった次第です。


次に‘庭木の手入れは見えない空気を魅せること感じること’。我々は仕事に慣れてくるとつい技術の巧みさを表に出したくなる物です。そこを、岡本さんは‘木は切ったかの如く剪定してはならない。’とお話しされます。木が伸びたいようにその空間にあった木のあり方に合わせて剪定することが重要で、木の声を聞きながらそこになければいけない枝を残しながら切りなさい、との事。


そこから繋がるのが次の‘無欲に出てきた手入れは素直な木になる’といった内容。我々の自我を出さず木の声を聞き、風が吹けばそよそよゆれるような枝…やはり自然のあり方に忠実に手入れする事が何より大切なのです。


また、そういった心構えはもちろんの事その上で‘躰の置き所が解れば100点’と岡本さんは続けます。これは‘不自然な体勢で剪定や仕事をしない’という事。確かに、身体が不安定な状態ですと道具や力がブレてパフォーマンスを発揮する事ができません。また、怪我や事故につながる恐れもあります。この言葉にピンとくる方も少なくなってしまったかもしれませんが、忘れてはならない基本の一つのように感じます。」


また、そういった仕事への姿勢や道具の扱いに限らず‘庭そうじの大切さ’についても岡本氏は語ります。


「やはり掃除は基本で大事です。岡本さんは京都で造園業を営まれていますが、京都のお庭は苔を用いることが多くございます。苔はその緑がしっとりと豊かで美しい印象ですが、実は非常に影を嫌う植物でもあります。日当たりが悪いと枯れてしまいますので、落葉の時期は特に枯れ葉が落ちないよう掃き掃除が鉄則です。放っておくと苔に葉が張り付いて掃除もしにくくなってしまいますので、3〜4日でも放っておくことは出来ません。


‘庭がやって欲しいことをちゃんとやる‘、’当たり前のことを当たり前にする‘。岡本さんは’声を聞く‘というお言葉を使われますが、声を聞くというのは庭やそこにある木々の状態をよく見て観察する事。そこで初めて気づきがあり、手入れへと繋がってまいります。


また、庭は他の創作物と違い、庭を最初に作った人がこの世を去った後違う庭師が手入れを引き継ぐなど…‘作った人と手入れする人が違う’事がよくある物です。庭を作った人がやりたかった事や仕上げたかった事を、庭から間接的に聞くことも重要です。作った人が求めていた完成に向け、庭を整えていくといったことも我々には求められることがございます。」


京都は特に寺社仏閣の多いお土地柄。歴史や庭の作られた時代背景についても理解が必要になるようです。


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庭に携わる上での姿勢から掃除の重要性まで、岡本耕蔵氏のお言葉を通し様々な見解を深められる内容ですが、そんなセミナーもいよいよ佳境となって参りました。


「様々なトピックスをお話しいただいた後、岡本さんが実際に手掛けられた現場の写真をお見せ頂きながらお仕事についてもお話を伺う事ができました。

瀬戸内海放送局のロビー前にあるお庭の例ですが、建物をぐるりと囲む廊下の向こう側に植栽帯が広がる回遊式の庭園です。植栽帯は広大な敷地に見合った大きさの樹木が数種、程よい距離感を保ちながら植えられており、その向こう側には建物と建物を繋ぐような形で長い川が流れています。大きな石から小さな石まで‘まるで最初からそこにあったかのような’居心地の良さを感じさせる石の並びがとても印象的です。


そのように立派なお庭ですが…岡本さんはどこのお庭を作る時も‘別の場所に実寸代のお庭を作る’との事。これには驚きを隠せませんでした。当然の事ながら、庭の工事費も手間も工期も二倍三倍とかかります。ですが、岡本さんのお客様は岡本さんのお仕事を高く評価してくださりご理解してくださる方達ばかり。こちらのお庭も一度畑に作ったお庭を施主様にプレゼンテーションし、調整した上で本番の施行を行われたとのこと。


こうすれば失敗することは絶対にありませんし、我々の仕事は生き物を扱うので図面通りに表現できませんから…岡本さんのやり方は‘確かにそうだな’と納得できるものの、大変な労力です。ですが、岡本さんと施主様双方の意思疎通をきちんと図るためにも、原寸大でお庭を作るのは岡本さんのポリシーなのだそうです。」


お話を伺いながら、そのような岡本氏のストイックな姿勢に‘だからこそここまで来られた人なのだな’と感心しつつも、感心に見合う言葉を思わず見失う程でございます。


「最後に…岡本さんからのメッセージ‘人に育てられ、人を育てて一人前’、‘熱中した仕事は成果が大きい’、‘学校で庭造りは教えてくれない’…この3点でセミナーを締め括られました。‘人に育てられ、人を育てて一人前’、私も清水園・代表という立場柄社員を教育する日々ですが、非常に頷ける内容です。‘熱中した仕事は成果が大きい’…若いうちはなんでも我武者羅に取り組みなさい、といったお言葉です。体力気力があるうち、本気で全力で取り組んだ仕事や実績・経験は‘昔ここまでやったから’という基準や自信に繋がります。


新しい事に挑戦し続ける為にも、仕事に熱中するというのは大切な事です。また、‘学校で庭造りは教えてくれない’…これは、庭は同じものが二つと出来ないといった事の例え。技術的な事はもちろん学校で学べても、庭は現場それぞれで教科書通りに行かないことがほとんどです。自身の身をもってとにかく自然や庭を感じて仕事に取り組む事。教えてもらった事が全てではないよ…というのが岡本さんの想いです。」


2時間のセミナーの中で、岡本氏が仰っていたのはまさに‘忘れてはいけない基本のき’。庭師であるなしに関わらず、お仕事や取り組みに対する向き合い方の中で、様々な業種・お立場の方の心に響く内容だったのではないかと感じます。

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