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【代表の想い】vol.98[日本庭園士補講習会]



皆さんこんにちは。清水園でございます。

この頃は海外から日本へ観光にお越しの方々も多く、賑わいを見せる街々の活気が感じられます。日本の文化を知っていただくことはもちろん、その先にある「日本の文化が好き」という想いに繋がっていただけたらと思うこの頃…そんな本日お伝えして参りますのは、海外にある日本庭園を管理する任務も担う「日本庭園士」にまつわるお話。先日代表が参加した「日本庭園士補講習会」についてでございます。

 

「海外のみならず、日本国内の世界的な文化遺産である日本庭園を管理するのが‘日本庭園士’の主なお仕事。少子化の影響も少なからずあり、我々の業界も若年層が減ってきておりますから…後世に技術を伝承し、日本庭園の作庭・管理・修復や改修の技術を持つ方を育てていくという目的もあり設けられた制度です。もちろん、海外にも日本庭園はございますから…必要に応じて海外へ庭園士を派遣することもあるようです。」

 

海外では「Japanese garden mister」とも呼ばれる日本庭園士。日本庭園に関する知識・見識・施工や管理を遂行するために必要な技術・技能を持つ技能者を指しますが、「日本庭園士認定制度規程により認定を受けた」方だけが「日本庭園士」を名乗ることが出来るのです。


「その試験というのも大変狭き門…日本庭園士の認定試験を受ける前にまず、‘日本庭園士補’と呼ばれる一次審査を通り抜け、各種研修を受講した後にようやく‘日本庭園士’に認定されるのです。」

 

代表の参加した‘日本庭園士補’の講習会受講資格においても、‘1級造園技能士資格の保有’や‘日本庭園の施工と維持管理の実務経験が10 年以上’など条件があり、申し込みにも造園連支部の推薦が必要との事。


また、日本庭園士補の認定を受けた後も60に及ぶ単位習得が条件だそう。日本庭園士の制度はまだ始まったばかりで、令和6年に単位取得者が受験出来るようになり、来年には一期生が誕生するとの事です。

 

「ハードルが高いとはいえ、挑戦しなければハードル自体を超えることも出来ませんので…今回参加させていただいた次第です。3日間のスケジュールのうち学科及び実地での庭づくりが課せられていたのですが…慣れないレポート課題などもあり、そこはやはり講習会ですが認定試験といった印象です。1日目の講習会の後、2日目に受講番号順で3人ずつのグループを作り5時間での作庭を行いました。中には初めてお目にかかる方もいらっしゃいましたので、各々に冷静な判断力と協調性・柔軟な対応が求められたように思います。」

 

用意された材料は何を使用してもOKとのことですが、各チームで設定したコンセプトに則り、基礎基本を押さえ作庭出来ているかを重視されたとのこと。5時間かけて作られたお庭は、1時間の講評後30分で解体するという…目を見張るハードスケジュールです。


「私のおりましたチームは、‘自宅から見た遠景の庭’をコンセプトに作庭しました。自宅から川を見たような印象に仕上げましたが、‘遠景の部分を縮尺にするなど工夫するとより良い’といったような講評をいただきました。詳細に関しては、その後のレクチャーにおいてご解説いただいた次第です。」


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3人1チームでの作庭後、講師の方々によるレクチャーが催されました。

 

「講師陣はメディアにも多く名を馳せる一流の‘現代の名工’ばかり…中でも、北山造園代表の北山安夫さんは以前からお会いしたかった方の一人です。北山さんはじめ、講師の方々にご挨拶できるだけでも非常に価値のある講習会だと思います。」

当コラムでも過去にご紹介した尼崎博正氏や造園連理事長の萩原博行氏をはじめ、著名な方々が講師としてご登壇された講習会。北山安夫氏のレクチャーは、北山氏が手がけられた建仁寺の修復からお話がスタート致しました。

 

「1970年頃に遡るのですが…日本では誰もがその名を知る建仁寺は、当時復興するにも荒れ果てた状態だったとのこと。当時無名の北山さんがご指名を受け建仁寺に訪れたそうで「詳細が分からずジーンズにTシャツで伺ったら、全員が正装で出迎えられ‘とんでもない所に来てしまった…’」と思われたそうです。荒れ果ててしまってはいるものの本山なのでどうしても盛り立てていきたい・なんとしてもやり直したい、とのご要望を受け、北山さんはまず‘建仁寺の庭がどうあるべきか’を3年かけて勉強されたそうです。」

 

そう、個人庭園の作庭と寺院本山の作庭の違いは‘歴史に忠実である必要がある’という事。日本庭園士は文化遺産を守る仕事でもある為、石一つを動かすのにも個人的な見解ではなく‘そこに歴史的な後ろ盾があるかどうか’調査と考慮を重ねる必要があるそうです。

 

「特に池などは泥が溜まるなどして作庭時の状態からは変化していることが多く、当時の状態を慮らなければ300年ある庭が突然変わってしまいかねません。北山さんの手がけられたお写真を拝見すると、1958年と2019年の現場が、白黒からカラーに変わっただけのような…まさに伝統がそのまま引き継がれた状態で修復・作庭されている様子が伝わって参ります。」


修復される中で、長い歴史を考慮し建物の位置関係・植栽の有無など偏移を辿るものも見受けられました。

 

「中には、北山さんが一から作り直されたお庭もあり…建仁寺の四方庭なども北山さんが手がけられたお仕事の一つです。庭の石を四方から囲むように眺めることの出来る‘渦巻型の庭’は、北山さんが文献から見つけられたものをアレンジされたものとの事。一方で、高台寺の池改修工事などは調査の上見つかった古写真から、作庭当時の様子が判明し修復されたとの事。このように資料があって初めて分かることも多くあるそうで、現状との変化を調べずには施工を手がけられない…日本庭園の格式の高さと個人庭園との違いを改めてご教示いただいた次第です。」

 

北山氏曰く「古庭園の管理は、思うほど楽なものではない。」との事。日本庭園士を志す受講者には、非常に説得力を持ってお言葉が響きます。


現代の名工たちが講師として名を連ねる「日本庭園士補講習会」。建仁寺の修復を手がけられた北山安夫氏のレクチャーの後、作庭実習の講評も踏まえランドスケープディレクターの戸田芳樹氏がご登壇されました。

 

「戸田さんはご自身の観点から‘人がものを見る・認識する時’、‘アイディアを形にする時’、‘作品を客観視し課題解決する思考プロセス’などについてお話くださりました。」

戸田氏は「人は関心のあるものしか見えない」とした上で、どういった時に人は‘見える’のかについて語ります。


「まずは、‘関心を持つ’ことで何かが見えてくる・少なくとも見ようとする。そして、‘何を見るか’は判断基準を持ち分析して見るポイントを絞ることで生じます。最後に‘仮説を立てる’ことで初めて、ものがはっきりと見える…このプロセスを経ないことには、見えない人には‘何回見ても見えない’との事です。」

確かに…我々が現状を認識する上でも、関心・判断・分析といった事を無意識に行なっているように感じます。また、見える力の大原則として‘気にしているとものは見える’・‘人は自分に必要なことだけを選んで見ている’・‘思い込みがあるとものは見えない’・‘人は本当に必要なことを見ていない事も多い’…など、ものの見え方についてとても論理的に解説を展開されます。

 

「戸田さんは‘ものが見える10のヒント’として、先に要点を知る・ヒントをまず探す・気づいた事をすぐメモする・素直になる・分析する・情報を減らす・比較する・一部を取り替える・視点を変える・複数の人で話す…といった内容をご提案されました。これらを自発的に行うことで確かにものが見えるようになり、‘ものが見える人全てに興味が湧いてくる’との事。特に庭の場合は、デフォルトを強めにしなければ伝わらない場合もあるとのご指摘がございました。私の参加した実地試験において、遠景の部分をわざとらしいくらいに縮尺にするなど工夫するとより良い’といったアドバイスも、ここからきているように感じます。」

 

その後も戸田氏は、思考の組み立てとして「点が線になり、線が面になり、最後は立体になる…仮説を立てて組み立てることで形が見えてくる。」といった内容や、「結論→全体→単純の構造を用いて、仮説思考はゴールや終わり・目的地や将来から考え、スタートや初め・現在地やできることを考えていく。」といった、見る事・認識する事についての根幹を様々な角度からお話しされました。


「こういったセミナーでは、皆さん各々の言葉を用いてお話しされるものの基盤にある重要なポイント…本質は通底しているなど感じることが多くございます。戸田さんの見る事・認識する事、思考についてのお話などからも、似たような庭ができても決して同じ庭にならないのは、やはり作る人それぞれの視点があるからなのだな…と改めて感じました。


理屈だけ・感性だけで庭を作ることは出来ませんが、やはり我々の間でよく言われるのは‘知識・理論が先か、技術が先か’といった内容。私が思うのは、今やっていることはなぜやっているか分からないよりも、‘必要だからやっていると理解し行動する’ことが大事だということ。‘ものを見る’のと同じで‘石を一つ運ぶ’のにも、その事への理解があるかないかで仕事の本質が見えるか見えないか…変わってくるように思うのです。」


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