top of page

【代表の想い】vol.77[岡本耕蔵氏 坪庭講習会]


皆様こんにちは。清水園でございます。

さて、弊社代表が所属しております‘日本造園組合連合会’では、そのセットメニューとして全国から講師の先生をお招きし、講習会が開催されます。


本日お伝えして参りますのは、平成27年4月に催された「岡本耕蔵氏 坪庭講習会」について。宮城県の造園家たち約30人が集い岡本氏の作庭について学びを深めました。


「岡本さんは京都の造園業‘京都にわ耕’の代表を勤めておられる造園家の方です。これまで講習会では当コラムでもお話しさせて頂いた御手洗さん・寺下さんなど、とても個性的な講師の先生方をお招きして参りましたが、岡本さんはそのお二方とはまた違ったタイプの方。

かねてから‘造園屋さんはお花とお茶は嗜んでいる’のが奥ゆかしいとされていましたが、岡本さんはそれらを嗜むどころか華道・茶道・能楽いずれも師範代…筋金入りの‘文化人’でいらっしゃいます。日本建築を代表する数奇屋建築の巨匠‘中村外二棟梁’とご縁も深く、京都をはじめ全国の名だたるお庭を手掛けれおられます。」


プロフィールだけお伺いする限りでも圧巻の造園家…講習会の内容も非常に興味深い限りです。2日間の講習会は半日座学・一日半現地講習のスケジュールで実施されたそう。

ここで興味深いのが…弊社代表はこういった講習会では率先して現場作業を行うところ、今回は「何も作業しなかった。」との事。どういった意図がおありだったのでしょう。


「岡本さんの講習会で、私は‘付き人’のような役割に徹していました。気の利く若衆のように、先生の身の回りのお世話や、先生の一言一句を聞き逃さないよう付きっきり。と申しますのも、岡本さんはご自身から積極的にお話をされるというよりも、必要な時に必要なことを的確にお伝えされる方。

こちらから尋ねない限り多くを語られる方ではありません。その立ち振舞いもそうですし、今回の作庭も全体を俯瞰して見るのには‘岡本さんについて回るのが一番良い’と判断した次第です。」


これまで、御手洗さん・寺下さんは講師として招かれているもののご自身が真っ先に作業されるまさに‘親方’。一方で岡本さんは、作業着も着ず道具も持たず…参加者に指示を出しながら一日中動いておられる。お二方とは真逆のまさに‘講師’のスタンスをお持ちだったそうです。


「今回の講習会では、先生が予め書かれていた図面を再現するといった内容でした。通常講習会では大きなお庭を一つ製作することが多いのですが、今回は4面のお庭を製作しました。岡本さんご自身お茶をなさることから‘茶人のお庭’という設定で、路地から前庭へ出て、戻って入ってくる…というような導線・物語の感じられるような内容でございました。」


講習会でのお写真を拝見すると、確かに過去の講習会のそれとは全く様相の異なるものでした。全体的に線が細く、とても繊細な印象の仕上がりです。


「例えば、四目垣や柱など…我々が実務で製作する場合はもっと太いものを使用します。ですが、そこは流石‘茶人のお庭’、繊細さ・高さなどを重視して細いものを使い、塀も低めに仕上げるように設計されており、無駄のない洗練された耽美さが全体を通して伝わって参ります。」


.


「‘茶人のお庭’という設定のもと、岡本さんの書かれた図面をおこして庭を作って参りますが…岡本さん曰く「つくばいや前石に立った時の距離など、この距離が大体適正…という黄金比が決まっている。」との事なのです。

これは岡本さんご自身がお茶をなさるからこその視点だと思うのですが、‘柄杓の位置など使いやすさで距離が決まっている。’‘お約束ごとにはちゃんと意味がある。’といった具合に…決まりごとを守り庭の製作に反映される、とても理論的なお方だと感じました。感覚的に自然の原風景を再現される御手洗さんとは全く真逆で、そういった意味でも講習会中はなかなか目が離せませんでしたね。」


あらゆる物の配置をはじめ、お茶の前庭には大きな花が咲くような木を植えないなど、まさに一木一草一石…といった具合に、京都の風格を体現したような潔い美しさを庭の随所から感じます。灯籠や道標など、非常に価値のある物を使われる際には「本物を使わなければ。」といったご本人のこだわりもおありだったご様子。


「4面お庭がある分、先にお話しした四目垣以外にも‘桂垣根’‘鉄砲垣根’といった、様々な種類の垣根を庭に応じて採用されていました。この背の高い桂垣根は、製作するとなると非常に時間のかかる代物ですので…今回は青年部の方のお家から、そのまま吊って持ってきていただきました。「捨てようと思っていたけれども、こうして第二の人生・役割が与えられて良かった。」と本人も報われていたようです。


また、鉄砲垣根は正面から見ると向こう側からあまり見えないという、特有の目隠しをしてくれる垣根なのですが…こちらは紐の結び方が特殊で、独特かつ手の込んだ‘装飾’のような役割を果たします。全体の景観の中で、洗練されてはいるものの遊び心を感じることのできるポイントです。」


4面のお庭、それぞれに個性が感じられ尚且つ訪れる人の目を楽しませることの出来る工夫が散りばめられています。これは岡本氏曰く「お茶に来るお客様の為の気遣い」だそうで、壁の前にもただ植栽するのではなく、その影・枝のなびきも非常に重要との事。


シルエット一つとっても景観に繋がり、枝にしても一本の間引きが印象を変える…こういった岡本氏の審美眼は、感覚的に共有しづらい部分もあるかもしれませんが、お庭を拝見していて非常に通底した‘何か’を感じることが出来ます。


「講習会で皆さんが作業されている間、ずっと先生の側について回っておりましたが…何もしなかったおかげで、普段なら作業していると聞こえない話も聞くことが出来、非常に勉強になった講習会でした。


また、中でも印象的だったのは岡本さん曰く「庭は作り直しするのが当たり前。」…講習会などで身につけた知識や技術は、お客様に「これが出来るようになったのでやらせてください。」と還元する、仕事に繋げるのが当然だという姿勢。学びを自ら積極的に実践で活かすことで、自身の可能性を広げることも成長にも繋げることが出来る…私もそういった姿勢を忘れずにいたいと感じた次第です。」


.


【関連ページ】

bottom of page